破産手続と交通事故①
破産手続と交通事故①
破産手続における交通事故の損害賠償請求の取り扱い
1 交通事故による損害賠償請求権と破産手続
不幸にも交通事故に遭われ、車は壊れ、怪我もしてしまった・・・。
このように、交通事故の被害に遭った場合、被害者は加害者に対して、交通事故により被った損害の賠償を請求することができます(民法709条等。法的にいえば、加害者に対する損害賠償請求権を取得する、ということになります。)。
破産手続は、一部を除く手持ちの財産をすべて換価し(=金銭に換えて)、債権者に対して配当することで、借金等の清算を行う手続です。ここにいう「財産」には、債権も含まれます。そのため、交通事故の被害者が加害者に対して取得することになる債権である損害賠償請求権も、「財産」に含まれうるのです。
それでは、交通事故の被害者の方が自己破産をする場合、損害賠償請求権はすべて債権者の配当に回さなければならず、被害者の手元には1円たりとも残らないのでしょうか。
2 破産手続において配当に充てられる「財産」とは?
破産手続は、上に述べたように、手持ちの「財産」を換価して、債権者への配当に回す手続ですが、配当に回される「財産」は、破産者が破産手続開始の時において有している財産に限られます(破産法34条1項。「固定主義」といいます。)。
つまり、破産手続の開始決定後に得られる財産(「新得財産」といいます。たとえば、破産手続開始決定後の就労により得られる給料は新得財産です。)は、債権者への配当に回されることはない、ということになります。
破産法が固定主義を採用しているのは、①破産手続が迅速に終結する(たとえば、破産者が給与所得者である場合、給与を受け取り続ける限り破産手続が終わらないということにもなりかねません。)、②破産者が新得財産をもとに、再出発をすることができる、といった理由からです。
3 交通事故の発生時期による区別
さて、交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を取得するということは、前述のとおりですが、損害賠償請求権の取得時期は、「交通事故のとき」です。
したがって、交通事故の発生が破産手続開始決定後であれば、被害者が取得する損害賠償請求権は、破産手続開始決定の後に新たに得た財産として、債権者への配当に回されることはない、ということになります。
他方で、交通事故の発生が破産手続の開始決定前であれば、被害者が取得した損害賠償請求権は、破産手続開始決定の時に有していた財産として、債権者の配当に回されるべきものとなります。
以上が固定主義を形式的に適用した場合の帰結です。しかし、実際の破産手続においては、破産手続開始決定前の交通事故による損害賠償請求権すべてが債権者への配当原資に充てられる、という扱いが貫徹されているわけではありません。
次回は、損害賠償請求権の実務的な取り扱いについて説明したいと思います。