破産手続と交通事故②
破産手続と交通事故②
破産手続における交通事故の損害賠償請求の取り扱い
1 交通事故による損害賠償請求権と破産手続
前回、交通事故の損害賠償請求権について、破産手続の開始決定時を基準に、交通事故の発生が破産手続開始決定前であれば、債権者への配当原資になるが、破産手続開始決定後であれば、債権者への配当原資にはならない、ということを説明しました。
しかし、破産手続開始決定前の交通事故の場合、その損害賠償請求権すべてが必ず債権者への配当に回されるかというとそうでもありません。
以下では、破産手続開始決定前の交通事故に基づく損害賠償請求権の破産手続上の取扱いについて述べたいと思います。
2 「損害」の内容による区別
ひとくくりに交通事故による損害賠償請求権といっても、交通事故による「損害」の内容は、壊れてしまった自動車の修理費用、けがの治療費、慰謝料や仕事を休まざるを得なくなった分の休業損害など、さまざまです。
このように、さまざまな損害のうち、自動車の修理費用などの物的損害については、交通事故がなければ換価され,債権者の配当に回されるはずだった自動車などの「財産」が破損したことにより、たまたま損害賠償請求権にかたちを変えたにすぎないと考えられます。そのため、物的損害の損害賠償請求権は債権者への配当原資に充てられます。
他方で、休業損害や後遺障害逸失利益(後遺障害が残ったために減ってしまう将来の収入のことをいいます。詳しくは https://kawanishiikeda-law-jiko.com 当事務所の交通事故専門のページを御覧ください。)は、いずれも交通事故がなければ破産手続開始決定後も就労することによって得られているはずの利益(=給料)を補填するものです。つまり、交通事故がなかった場合には、給料というかたちで新得財産となるものですので、基本的には債権者への配当原資にはならないと考えられるでしょう。
ただし、事故後、破産手続開始までの期間の休業損害は新得財産とはいえないので、配当原資に充てられる可能性があります。また、逸失利益についても、不確定な将来の可能性を、破産手続開始決定前である交通事故時点での金銭的な請求権に置き換えるものですから、具体的な事情によっては、配当原資に充てられることもありうるところです。
3 治療費について
治療費については、保険会社から医療機関へ直接支払いがされることがほとんどを占めていますので、破産手続上問題になることはあまりありません。
仮に保険会社から医療機関への直接の支払いがない場合でも、治療費は被害者の生存に関わってくるものであるため、債権者への配当原資に充てられるという取扱いがされることはまずないでしょう。
4 慰謝料について
慰謝料は、被害者の被った精神的苦痛を金銭に見積もって請求するもので、慰謝料を請求するかどうかはもっぱら被害者自身の意思によると考えられています。また、苦痛の程度や、加害者の対応等の不確定要素を考慮した上で金額が決まってくる性質の請求権でもあります。こういった特徴から、慰謝料請求権は法律上差押えが禁止される財産として、債権者への配当原資にはなりません(破産法34条3項)。
しかし、被害者が具体的に請求をし、金額が確定してしまえば、上記のような特徴は失われることになり、差押えることが可能になります。
したがって、慰謝料請求権は、原則として具体的に請求し、その金額が確定するまでは債権者への配当原資にはならないが、金額が確定してしまえば配当原資に充てられる,ということになります。
もっとも、この点については争いがあるところですので、最終的な結論は個別具体的な事案によって異なりうるところです。
このように破産手続上の損害賠償請求権の取扱いには複雑なものがありますので、弁護士にご相談いただければと思います。